不動産売買の契約書には実印と認印のどちらを押すべきなのかについての解説

実印の写真

通常、不動産の売買契約書には契約当事者が署名・捺印を行います。

ここで多くの方が悩むのが、売買契約書に押すのは実印なのか?、認印でもいいのか?ということです。

不動産の売買は一般的には不動産業者が仲介を行いますので、基本的には不動産会社の案内や説明に基づいて契約をすすめていきます。しかし不動産業者の中でも実印が“必要だという業者”“必要でないという業者”がいるのです。

プロである不動産会社でも意見がわかれているので、一般の方はますます困惑しますし、一体どちらが正しいんだろうかという強い疑問を持ってしまいます。

実印というのは、認印よりも重要なものだということは多くの方が認識していると思います。その重要な実印を必要もないのに押したり、よくわからないままで使ったりしたくはないですよね。

今回は不動産の売買契約時に実印が必要なのかどうかということを、原理原則実際の取引を分けてくわしく解説したいと思います。

この記事を読んでいただくことで、実印のあつかいに関する疑問を解消していただけると思います。

実印の意味と目的

実印とは

実印とは住民票上の居住地(住民登録がある)の市区町村に登録した印章のことです。印章とはハンコのことです。1人につき1個だけ登録することができます。また、登録することで印鑑証明書を発行してもらうことができます。

登録の際は、登録するハンコと身分証明書(免許証やパスポート)、そして登録費用が必要になります。費用は自治体により異なります(50円から300円くらい)。

実印は、本人確認を行って市区町村に登録されており、また市区町村が発行する印鑑証明書と合わせることで、強力な本人証明能力を持ちます。

このことから、次のような重要な手続きのには、実印と印鑑証明が用いられます。

  • 不動産取引
  • 不動産登記
  • 金銭消費貸借契約
  • 公正証書作成

実印と認印の違い

実印と認印の違いは、実印登録がされているか、実印登録がされていないかということです。

ハンコの作りによってこれは実印、これは認印というような区別はありません。実印登録された印章(ハンコ)が実印です。

例えば、100円のハンコを実印登録すればそれが実印となりますし、3万円も5万円もする立派なハンコでも実印登録を行っていなければ認印です。

ただし実際には多くの方が、実印登録するハンコには、それなりにしっかりしたものを用いてます。

原理原則は実印でなくても契約は有効

一般的に不動産の売買契約書には実印を押すことが求められます。なぜ実印が必要なのでしょうか。実印でないと契約が有効にならないのでしょうか。

結論から言うと、不動産売買契約書に押す”ハンコ”は、実印でなくても、契約自体は有効です。もちろん実印でも有効ですが、認印でも契約の有効性には基本的に変わりがありません。

なぜかというと、契約とは民法で定められており、一方の当事者が契約をしたいという申し出を行い、相手方が承諾の意思表示を行うことで成立します。そこに実印だから売買契約が有効とか有効でないなどという定めはありません。また、そもそも契約書が必要という定めもありません。申し出と承諾で契約は成立します。

ただし、実際には双方が契約の意思表示を行っても、なんの証拠もなければ、後で一方の当事者が意思表示をしていないと主張する危険性があるので、現実には書面(契約書)を作成し、お互いが意思表示を行った証拠を残すのです。また、不動産業者が仲介を行う不動産売買の場合は、宅建業法により規定の事項を記載した書面(37条書面)の交付義務が定められており、通常この契約書を持ってこれにかえています。

契約の有効性という観点から考えれば、契約書に押すのは実印でも認印でも、どちらでも問題ありません。

実際の取引で契約書に実印を求められる理由

不動産売買では、契約書に実印を押すことを不動産業者や契約の相手方から求められることが一般的です。また、金融機関と交わす金銭消費貸借契約書(住宅ローンの契約書など)にも実印が求められます。(※地域的な商習慣や不動産業者、売主、買主、金融機関等の事情や意向にもよるので、絶対に実印を求められるというわけではありません。)

それは不動産業者が実印でないと契約が有効ではないと勘違いしているからではないのです。契約書に実印を求めるのには、きちんとした意味や理由があるのです。

それは主に次の理由によるものです。

  1. 売主が真の不動産所有者であることを確認するため(取引の安全性を高めるため)
  2. 所有権移転の時に法務局が書類を照合しやすくするため(登記に関する理由)
  3. 契約の重要性を高めるため(心理的な理由)
  4. 住宅ローンや融資を受けるときに、金融機関が本人照合をするため。(ローンに関する理由)

主にこの4つの理由で、契約書に実印を押すことが求められるのです。

取引の安全性を高めるため

契約書に実印を押す最大の理由は、不動産取引の安全性を高めるためです。安全な契約とは、契約の当事者がだましたり、だまされたり、または詐欺行為等が発生しないような契約です。そのためにも、売買契約の信ぴょう性を高める必要があります(真正を担保する)。売買契約に信ぴょう性があり、真正なものであるためには、契約する当事者が本物であるということを確認しなければなりません。

例えば契約の売主が実は本当の所有者ではなかったなどという場合、これは安全な取引ではなく詐欺ですよね。時々ニュースに”地面師”という言葉が出て来ます。これはまさに不動産の所有者になりすまして、買主からお金をだまし取ろうとする詐欺師のことです。

そんなことがあるのだろうか?と思うかもしれませんが、実際にあるんです。2017年には大手ハウスメーカーの積水ハウスさんがこの地面師の被害に遭い、55億円もの大金をだまし取られています。1部上場企業で、プロフェッショナルが多く在籍する大企業でも被害に遭っているんです。過去にもこの地面師の被害は多く発生しています。

契約の信ぴょう性を高め、真正を担保するために、契約当事者が誰なのか売主が本当に不動産の所有者なのかということを信頼性の高い方法で確認する必要があるのです。そしてその信頼性の高い方法が、実印を押して印鑑証明と照合するということなのです。

だから、不動産業者は契約書に実印を押すことを求めるのです。ここには契約の信ぴょう性を高め、取引の安全性を確保しようという意図があるのです。取引の安全性を高めるというのは、不動産業者の義務であり、売主や買主の利益になることです。

登記に関する理由

売買契約が成立して、売主から買主に所有権を移転するとき、法務局に必要な書類を提出して手続きを行います。これを所有権移転登記といいます。通常この手続きは司法書士に依頼します。

所有権移転登記では、必ず売主の実印と印鑑証明書が必要になります。また、「登記原因証明情報」を提出することも求められます。登記原因証明情報とは、「登記の原因となる事実または法律行為」があったことを証明する書類等(情報)です。

以前はこの登記原因を証明するものとして、不動産の売買契約書を法務局に提出していました。そこで、契約書に押されている印鑑が、登記申請で提出する本人の実印と印鑑証明と同じであれば、信頼性が高く、法務局も照合しやすくなりました。

しかし現在は、登記の制度も変わり、所有権移転登記申請の際に契約書を添付することはほとんどありません。もし、売買契約書を添付して申請を行うと、登記に必要な情報以外に契約書に記載されているすべてが公開されてしまうからです。

実際には司法書士が、登記の原因を証明するために必要な事項を記載した書式を作成し、ここに売主と買主が記名押印を行ったものを法務局に提出するという方法がとられています。この書類に押す、売主のハンコは実印である必要があります。

「登記原因証明情報」を作成する際に、司法書士は登記の原因や本人確認をする必要があります。司法書士も、登記の原因が確実なものであると確認せずに書類を作成するわけにはいきませんからね。基本的には身分証(運転免許証など)、住民票、印鑑証明、そして面談などで本人確認を行います。その時に契約書の印鑑が実印であれば、確かに不動産の所有者本人が売主として契約したものであると照合しやすくはなります。

このように契約書に実印を押すのは、登記の手続きを安全に確実に行うという意味合いもあります。

契約書の重要性を高めて解約を防ぐ意味合い

認印より、実印の方が重要性が高いというのは多くの方が認識しています。契約書類に実印を押し、印鑑証明を提出すれば契約書の重みも増します。

実印を用いることで契約書または契約行為の重みを増し、簡単に契約解除をするという気持ちになりにくくするという心理的効果が期待できます。

ただしあくまでも心理的効果なので、さまざまな理由で解除がどうしても必要となれば、実印を押していても当事者が契約を解除するということはあります。

住宅ローン申請のため

不動産売買の買主が住宅ローンなどの融資を利用する場合、審査や申込みのときに、金融機関から売買契約書の原本確認と写しの提出を求められます。また、金銭消費貸借契約時(お金を借りるための契約)には印鑑証明書の提出も求められます。

こうした住宅ローンの手続きのときに必ず実印と印鑑証明書が必要です。契約書にも同じ印鑑(実印)がおされていることで金融機関は、売買契約者と住宅ローンの申込者が確かに同一人物であると照合しやすくなるのです。

実際の取引の経験上から言うと、売買契約書に実印が押されていなくても住宅ローンの申請や手続きが何の問題もなく行われることもあります。このあたりは、金融機関の方針にもよりますので、不安な場合は住宅ローンを利用する予定の金融機関に、契約前に相談することをおすすめします。

その際は、「売買契約書に押す印鑑は実印でないとダメですか?」と率直に聞いてみましょう。

まとめ

売買契約書には実印が必要なのか、認印でもいいのかということをくわしく解説させていただきました。

契約の効力という観点から考えると、認印でも問題ありません。ただ、契約の安全性や信ぴょう性、住宅ローン手続き等、解約リスクの低減などのことを考えると、実印のほうが望ましいでしょう。

不動産売買において最も大切なのは、取引の安全性とスムーズな手続きだと思います。これらを担保するためにも実印の効果は大きいと思います。

一般的に実印を押すのは、ご自身の重要な意思表示を行う文書であり、本人であることを証明する必要がある場合です。不動産の売買はこれに当てはまるのではないでしょうか。

不動産の売買や様々な重要な取引にのぞまれる方のご参考になれば幸いです。最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

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