がけ条例とは“がけ”のすぐ上や下に、家やビルなど人の住む建物を建てることを制限するために設けられた条例です。
目的は、地震や大雨等でがけが崩れ、住んでいる人が巻込まれて被害に合うのを防ぐためです。
「がけ条例」というのは通称で、各都道府県や政令指定都市、自治体によって呼び方が違います。また、内容もそれぞれの地域で定められており違いがあります。
例えば、規制の対象となるがけの高さに関しては、東京都の条例では2m、福岡県の条例では3mとなっています。呼び方は東京では「東京都建築安全条例第6条」、福岡では「福岡県建築基準法施行条例第5条」です。
一般的に、「2mまたは3mを超える高低差があり、30度を超える傾斜をなす土地」を”がけ”として、規制の対象にしています。
「がけ条例」の細かい内容は都道府県、各自治体によって少しずつ違いますので、実際に土地をお探しの場合は、各自治体に規制の内容を確認してください。
それでは、ここからはがけ条例の内容について、くわしく、わかりやすく説明させていただきます。
がけ条例の対象と内容
規制対象になる”がけ”とは?
がけ条例で規制の対象となる“がけ”とは、地表面が水平面に対して30度を超える傾斜度をなす土地です。
また、規制の対象になるのは、“がけ”の高さ(垂直距離)が2mまたは3mを超える場合です。(※東京都2m、福岡県3mなど自治体により規定が違います。)
がけ条例の対象となるかどうかのポイントは2つです。わかりやすく図で見ていきましょう。
上図のように(1)高さが2mまたは3m以上、(2)傾斜角が30度を超えている、場合にがけと判断します。
そしてがけからの距離によって、がけの上の家と、がけの下の家、どちらも規制の対象となる可能性があります。
がけ条例の規制内容
上の図で説明させていただいた、”がけ”の上または下に家(居室を有する建築物)を建てる場合、がけから一定の距離を離して建築しないといけません。
がけの上の場合
がけの上の場合、家(居室を有する建築物)を建ててはいけないのは次の範囲です。
「がけの下端(かたん)から水平距離が、がけの高さの2倍に相当する距離以内の位置」
下端とは一番したの端(はし)という意味です。ちなみに”したば”という読み方もできますが、こちらの読み方の場合は、物の下の面、下の部分という意味になります。
がけの下の場合
がけの下の場合、家(居室を有する建築物)を建ててはいけないのは、
「がけの上端(じょうたん)から水平距離が、がけの高さの2倍に相当する距離以内の位置」
上端とは一番上の端(はし)という意味です。”うわば”と読むとものの上の面、上の部分という意味になります。
規制内容の図
文章で説明した規制内容を、あらためて図で説明させていただきます。
赤〇で囲んだ部分が上端と下端です。
がけの下の場合、この上端から高さ(H)の2倍の水平距離の範囲に、家(居室を有する建築物)を建てることはできません。
がけの上の場合、下端から高さ(H)の2倍の水平距離の範囲に、家(居室を有する建築物)を建てることはできません。
注意したいのは、がけの上の場合は下端からの距離でがけの下の場合は上端からの距離ということです。
購入を検討する土地がこれらの要件に当てはまる疑いがある場合、不動産会社に詳細を確認しましょう。がけ条例の対象地の場合、上記の規制を受けるので、買った土地の一部に建物が建てれないということになります。
または、後半で説明しますが、がけ条例を緩和するための対策を行わないと、規制を受ける部分に建物を建てることができないということになります。そうした対策を行うには多くの場合、多額の費用がかかります。
その他の注意点
他人の土地にあるがけ
自分の土地だけではなく、隣接地にあるがけも、この規制の対象となります。
例えばあなたが買った土地の隣接地に、さきほど説明したがけがあったとします。その場合でもがけ条例の規制を受けます。
このような可能性もあるので、購入を検討する土地だけでなく、その周囲の土地の状況も合わせて確認することが必要がです。
がけ条例の緩和
ここまでがけ条例の規制内容について説明してきましたが、次のような場合には規制が緩和されます。
- 擁壁の設置により、がけの崩壊が発生しないと認められる場合
- 地盤が強固であり、がけの崩壊が発生しないと認められる場合
- がけの崩壊により建築物が自重によって損壊、転倒、滑動または沈下しない構造であると認められる場合
- がけの崩壊にともなう建築物の敷地への土砂の流入に対して、建築物の居室の部分の安全性が確保されていると認められる場合
それぞれについて見ていきます。
1. 擁壁の設置
がけの部分が崩壊することを防ぐため、擁壁の設置を行うことで安全を確保します。
擁壁とはかべ状の構造物で、がけなどの傾斜面や地盤が崩れるのを防ぐためのものです。様々な種類がありますが、代表的なものには、石積み、間知ブロック、L型擁壁、重力式擁壁などがあります。
擁壁の設置には、高さや範囲にもよりますが、多額の費用がかかることがあります。数百万円になることもめずらしくありません。
また、がけ条例の規制を緩和するための擁壁は、建築士によって安全性が確認されたもの、または確認申請を行って検査済証を取得しているなど、適法に造られたものでなければいけません。
擁壁があっても、劣化が激しかったり、現在の法律の基準に満たないものは認められません。
2. 地盤が強固で崩壊しない
圧縮強度が高い硬岩盤等のがけで、崩壊が発生しないと認められる場合。
これは、地質調査と構造計算等を行って確認する必要があります。
3. 自重で損壊、転倒、滑動、沈下しない構造
がけが崩壊しても、建物が壊れたり、転倒、滑動、沈下しないように、建物の下に強固な杭を打つなどの方法が考えられます。
地盤調査を行い、専門家による杭の設計、選定などを行って十分安全性を確認する必要があります。
4. 土砂の流入を防ぐ対策や構造
がけと家の間にコンクリートの壁等など土留(どどめ)を設置し、土砂が流入してきてもそこで食い止めるような構造物を設置するなどの対策です。
または、建物のがけに面する部分を無開口にしたうえで、壁を鉄筋コンクリートでつくるなど、土砂の建物への流入、影響を防ぐなどの対策もあります。
※無開口とは窓やドア等の開口がなく、壁だけとういう意味です。
条例緩和の対策を行うにあたって
擁壁や杭など、いくつかの緩和策をご説明させていただきましたが、どれを行う場合も費用がかかります。
対策によっては数百万円を要するので、もしがけ条例の対象地を購入する場合は、どんな対策をとるのか、費用がいくらになるのかなどを、専門家に相談してしっかりと検討する必要があります。
がけのある土地の見方
ここまで、がけ条例の詳細や対策について説明させていただきました。
ここからは、実際にがけのある土地を見る時に、どうすればよいのかをお伝えしたいと思います。
疑わしい場合は確認する
土地を見て、もし高低差が2mまたは3mあるかもしれないと思ったら、不動産会社にがけ条例について確認しましょう。
「たぶん大丈夫です。」
「がけ条例にはかからないと思います。」
などのいい加減な返事に納得してはいけません。きちんと調査したうえでの回答なのか、もしくは不明なので今後調査するのかなどを確認しましょう。
購入後にがけ条例の対象とわかった場合は、希望している家が建てられなかったり、追加で多額の費用が発生することがあります。
既存の擁壁がある場合
購入を検討している土地に、2mもしくは3mを超える擁壁があった場合、以下のことを確認する必要があります。
- いつ建設されたのか。
- 状態・劣化状況は。
- 確認申請を受けて建設したものなのか。
- 検査済証はあるか。
全ての擁壁で条例の緩和が受けれるわけではないからです。
劣化の状況や、確認申請を受けているか、検査済証はあるかなどを確認して、安全かどうかを見極める必要があります。
不動産会社や住宅の建築を依頼する会社、建築士などに、問題がないのか調査してもらいましょう。
既存の擁壁が安全でない場合
調査の結果、既存の擁壁が安全でなく、がけ条例の緩和対象にならない場合は、対策を行う必要があります。
擁壁のやりかえや、杭、土砂の流入を防ぐ対策などが必要になるので、見積もりを取って費用を確認しましょう。
こうした費用も合わせて資金計画を行い、本当に購入するかどうかを判断をしてください。費用が高額になりすぎる場合は、別の土地を検討した方がいいでしょう。
まとめ
最近ニュースでは大雨や地震で、がけの上の家がすべり落ちたり、下に住んでいた方が上から崩れてきた土砂で被害にあったりしていることが報じられています。
がけ条例は人の命にかかわる重要な規制ですので、必ず確認する必要があります。
また、この規制を知らずに土地を買ってしまった場合、いざ家を建てるときになって建築の許可が下りないという状態になるかもしれません。
他にも、家を建てるためにはがけを改良(擁壁をつくるなど)することが必要となり、想定していなかった多額の費用がかかってくるというケースも考えられます。
不動産売買において、がけ条例に関することは不動産会社が重要事項として内容を説明する義務があります。
規制の対象地である場合は基本的に、契約前にきちんとした説明や情報提供が行われるはずです。
しかしこうした決まりがあるにも関わらず、がけ条例によるトラブルが全国で発生しているのも事実です。
万が一にも、がけ条例の対象地を知らずに買ってしまい、トラブルになるということを防いでいただくため、ぜひこの記事をご一読いただきたいと思います。そして基礎知識や予備知識をつけてから土地探しを行っていただきたいと思います。
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