手付金の意味と手付解除の方法についての解説と、履行に着手とはどのような時なのかを説明します。

お金を数える様子

不動産を購入するときには通常、契約時に手付金を払います。この記事では、手付金の意味やしくみ、そして手付金を利用した契約解除の方法『手付解除』についてくわしく説明させていただきます。

お仕事で不動産取引に関わっている方や、何回か不動産売買を経験している方であれば、契約時の手付金は普通のことだと感じるでしょう。しかし、これから始めて不動産を購入する方々にとって、手付金は未知のものであり、いったいなんのために支払うのか、売買代金とは別に支払うのかなど、さまざまな疑問があると思います。

それは当然のことです。なぜなら、不動産や一部の契約を除き、普段の買い物や取引で手付金を払うということはあまりないからです。一般の方にとって、手付金はあまりなじみがないものなのです。

普段の生活であまりなじみのないこの手付金ですが、不動産の売買を行うのなら、その意味や相場、いつ払うのか、どんなときに使うのかということを理解しておく必要があります。また、手付金にだけ言えることではありませんが、正しい知識を持つことは、様々な場面で自分の権利や利益を守ることにもなります。

この記事をお読みいただくことで、不動産取引における『手付金』の正しい知識を身につけていただけると思います。




手付金とは

不動産売買における手付金

手付金は、不動産売買契約の締結時に買主から売主に支払うお金です。手付金の金額は双方の合意によって定めます。一般的には売買代金の10%から20%とすることが多いです。売主が宅建業者である場合は、手付金の額が売買代金の20%以内と規定されています。(宅建業法39条1項)

手付金は残代金の支払いの時(決済時)に、売買代金の一部として充当します。つまり契約した売買代金とは別に手付金が必要というわけではありません。

また、通常はあまり深く考える必要はありませんが、手付金は残代金支払い時に売買代金として充当するまでは、売買代金の一部ではありません。それまでは売買代金の一部ではなく、あくまでも手付金です。ここが中間金や残代金とは意味が違うところです。

手付金の意味と目的

不動産取引における手付金は基本的に”解約手付”です。もともと、手付にはさまざまな意味がありますが、契約時に特別な決まりを定めたり、意思表示をしないかぎりは”解約手付”であるということが民法で定められています。また売主が宅建業者である場合、不動産取引における手付金は必ず”解約手付”であると定められています(宅建業法)。

解約手付とは、手付金を解除権留保のための手段とすることです。少し難しい言葉ですが、解除権留保とは「解除する権利を持つ、解除する権利を自身にとどめておく」という意味です。つまり手付金を使って契約を解除できるというしくみが、解約手付、不動産における手付金の意味です。売主や買主が契約締結後に、契約を解除したいと考えたとき、手付解除が可能な期限までは、理由に関わらずこの手付金を使って契約解除を行うことができます。

具体的には、売主は受け取った手付金の倍額を買主に支払うことで、買主は支払った手付金を放棄することで売買契約を解除することができます。手付解除が可能な期間であれば、自己都合であれ何であれ理由の如何を問わず、契約を解除ができることが民法557条で定められています。

例えば、ある不動産取引で契約書にしたがって、契約締結時に売主から買主に80万円の手付金が支払われたとします。売主が契約を解除する場合は、買主に160万円を支払うことで契約を解除できます。また、買主が契約を解除する場合は、支払い済みの80万円を放棄することで契約を解除することができます。

手付金の要物性
手付金は、契約締結時に実際に授受(支払いと受領)される必要があります。何が言いたいかというと、たとえ契約上は手付金が100万円と定められていても、実際に50万円しか授受が行われていなければ、解約手付は50万円ということになります。契約解除の際に買主は実際に支払った50万円を放棄すれば手付解除を行うことができます。また、売主は受領した手付金の倍額、100万円を買主に支払うことで手付解除を行うことができます。

もし、契約時に50万円の手付しか支払っていない状況で、買主が手付解除をしたいと意思表示したとき、売主が買主に、契約上の手付金は100万円なので、残りの50万円を支払えということはできません。これを手付金の要物性といいます。

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手付解除ができる期間や具体的方法

手付解除ができる期間

ここまで、手付金の放棄(買主)や倍返し(売主)をすることで契約を解除できるということをお伝えしました。しかしこの手付解除、いつまでもできるというわけではありません。

手付解除ができる時期には、次の2つのパターンがあります。

  • 相手方が契約の履行に着手するまでの間
  • 契約書で手付解除ができる期間を定める

民法では、相手方が契約の履行に着手するまでの間は手付解除ができるとされています。また、契約書で民法で定められた期間(履行に着手するまで)より手付解除ができる期間を短くすることもできます。

ただし、宅建業者が売主の場合、買主が手付解除できる期間を民法で定められた期間より短くすることはできません。

契約の履行に着手するとは

契約書で手付解除の期限を定める場合はわかりやすいのですが、相手方が契約の履行に着手するまでとはいったいいつまでなのでしょうか。

履行に着手するとは、外部から客観的に認識しうる形で契約の履行行為の一部を行ったり、契約の履行に欠かすことのできない前提行為をした場合とされています。

非常にわかりにくいですよね(笑)

この履行に着手したかどうか、つまり手付解除ができるかどうかということに関しては多くの紛争が起き、実際に裁判になっているケースも多くあります。そしてさまざまな判例を見ても、明確で具体的な判断基準というのは示されていません。

多くの判例で共通しているのは、相手方が外部から客観的に認識でき、契約の履行に欠かすことのできない前提行為を行っており、もし契約解除を行えば相手方が不足の損害を被るなどの場合には、履行に着手したとして、手付解除が認められないという判決が多いようです。

履行に着手に関する例

実際の判例をもとにわかりやすい例を作って説明させていただきます。

売主Aと買主Bは、Aの所有する自宅物件(土地・建物)の売買契約を締結しました。売買金額は5,000万円です。契約時にBはAに手付金250万円を支払いました(5%)。契約書には手付に関して「相手方が契約の履行に着手するまでは手付解除ができる」という内容が定められていました。

また契約書で、売主Aは引き渡し(3か月後)までに売買対象土地と隣接地の境界を確定させて、買主Bに明示し、土地家屋調査士が作成した実測図や境界確認書を交付するということが定められていました。

契約締結後、売主Aは境界画定に協力、立ち合いを行いました。また自宅を売却するため、転居先を決めてそこのリフォーム工事を建設業者に依頼しまし、着手金を支払いました。

売主Aのこうした行為の後、買主Bから手付解除の申し出がありました。そして裁判となったわけです。裁判の結果は、Aの行為は履行の着手と認められ、Bの手付解除は認められないという判決でした。

ポイントは次の点です。

  • AはBが手付解除をする前に、土地境界画定に協力し、立ち合いを行った。→ 客観的に(外部から)認識できる形で、契約書に定められた債務(義務)の一部を履行したといえる。
  • AはBが手付解除する前に、転居先のリフォーム工事に着手し、着工金も支払っている。→ 契約書の債務(物件の引き渡し)を行うために欠かすことのできない前提行為を行った。

客観的に認識できる形という点や、契約の履行に欠かせない前提行為を行った点などがポイントとなり、Aは履行に着手しておりBによる手付解除は認められないという判断になっています。

いくつかの判決を見ると、契約の条件や時期など、さまざまな事情により総合的に判断されるようなので、どのケースにも当てはまる明確な基準をお伝えすることはできませんが、この例は一つの参考になると思います。

また、単に住宅ローンの申し込みをしたとか、司法書士に登記の依頼をしたとか、口頭で支払いの準備ができたと相手方に伝えたなどは、履行の着手としては認められないようです。

手付解除の方法

買主から手付解除をする方法

売買契約時に支払った手付金を放棄して、売買契約を解除する意思を相手に通知することで手付け解除が可能です。ただし、手付け解除できる期限内に相手方に意思表示する必要があるので、紛争を避けるためにも内容証明郵便で解除の通知を行い、いつ手付け解除を行ったかを明確にしておいた方が良いでしょう。

売主から手付解除をする方法

売主が手付け解除をする場合は、契約時に受領した手付金の倍額を買主に提供したうえで、解除の意思表示を行う必要があります。

注意しないといけないのは、実際に手付金の倍額を相手方に提供したうえで解除を行う必要があるということです。たとえば、相手方に「もらった手付金の倍額を支払って契約を解除します。」と伝えただけでは手付け解除の効力は発生しないのです。それは、まだ手付金の倍額を相手に提供していないからです。通知だけしておいて、手付け解除期限が過ぎたあとに手付金の倍額を相手に提供したのであれば、手付け解除は認められません。

あくまでも買主にお金(受領した手付金の倍額)を提供したうえで、契約解除の意思表示を行ってください。また余計な紛争を避けるために、買主が手付け解除を行う場合と同様、内容証明郵便で解除の通知を行った方が良いでしょう。

手付解除の注意点

手付け解除は、手付金の放棄や、受領した手付金の倍額を相手方に支払ったうえで解除の通知をすることで効力を発生します。基本的にはそれだけで良いです。

しかし、「言った、言わない」など意思の疎通がうまくいかなかったり、さまざまな紛争を避けるためにも”手付け解除を行ったこと”、”手付け解除のお金の流れや日付等”について、契約当事者双方が確認する書面を取り交わすことが望ましいでしょう。

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手付に関する宅建業法のきまり

宅建業法では、手付金という制度について様々なことを定めて規制をしています。

宅建業者が売主の場合

宅建業者が自ら売主の場合の基本的な禁止事項としては、『宅地建物取引業者の相手方等(買主)が手付けの放棄をして契約の解除をしようとしたとき、正当な理由なく、その解除を拒むことはできない』という決まりがあります。(宅建業法47条の2第3項、施行規則16条の12第3号)

また、下記の項目は宅建業者が不動産売買の売主となる場合の規制一覧です。下記については、“買主”が宅建業者である場合は適用されません。

全般的な規制

  • 受け取ることができる手付金は最大で、売買代金の20%以内。
  • 手付けがどのような理由で交付され、また受領されたかにかかわらず手付け解除が認められます。
  • 民法の規定である、「相手方が履行に着手するまでは手付け解除ができる」という規定より不利な期限設定は無効。
  • 手付金以上の金額を支払わないと、買主が契約を解除できないという内容の特約等は無効。
  • 手付金が解約手付けであるということを否定することはできない。

手付金の額による規制

手付金等の額が次の場合、金融機関等による『手付金等の保全措置』を講じた後でなければ、売主である宅建業者は手付金を受領することができません。「手付金等」というのは、手付金・中間金・内金など、契約してから引渡しまでに売主が受領するすべてのお金の合計です。

  • 未完成物件の売買契約では、手付金等が売買代金の5%もしくは1,000万円を超える場合。
  • 完成物件の売買契約では、手付金等が売買代金の5%もしくは1,000万円を超える場合。

ただし、「売主が宅建業者でない場合」、「手付金等の総額が上記以下の場合」、また「売買する不動産について買主への所有権の移転登記、または買主が所有権を登記したとき」は、『手付金等の保全措置』を行う必要はありません。

宅建業者が売主または代理・媒介として取引を行う場合の規制

買主に対して、手付金を貸し付けたり、信用の供与を行うことにより契約の成立へと誘引することは宅建業法で禁止されています。

例えば、不動産の内覧・見学に来た顧客に、宅建業者が「売れそうなのですぐに契約した方がいいです!今お金を持っていないなら、手付金分はいったん貸しときますから。」などと言って、強引に契約を成立させたとします。そして後日、顧客がよく考えた結果、契約を解除したいと申し出ると、貸し付けた手付金相当額の返還や、多額の違約金を請求されるなどという悪質な事例があります。

このようなことを防止するための規制です。

また、単に手付金等を貸し付けるだけでなく、手付けの分割払いや手付金を約束手形で受け取ることなども、「信用の供与」となり、禁止されています。

まとめ

不動産取引だけではなく、世の中はいろいろな人達の利害関係で動いています。だから、損したりだまされたりしないためには正しい知識を身につける必要があります。基本的に自分の権利や利益を守るためには、自分で備える必要があるのです。

特に不動産の売買には様々な決まりや法律、習慣があります。また、手数料や手付金、登記費用や税金など、様々なお金が発生します。一般の方にとって非常にわかりにくく、とっつきにくい世界なのです。

ただ、現在は様々な不動産会社や公的機関のホームページ、各地の宅建協会の相談窓口など、ある程度簡単に、必要な知識を身につけることができる環境が整っています。その道のプロになるためにはそれなりの時間や努力が必要ですが、一般の方が不動産の取引に関わる場合は、こうしたホームページやにさっと目を通すだけでも、自分を守る力が全然変わってくると思います。また、疑問に思った場合は、例えば手付金のことであれば、スマホで『手付金』を検索していくつかのサイトを読んでみるだけでも全く違うと思います。

注意点としては、様々なホームページや質問サイトなどにはいろいろなことが書かれていますが、かなりの頻度で正しくない情報も平然と書かれているということです。できれば公的なホームページや宅建協会の相談窓口などで直接確認する方が安全でしょう。

この記事が、これから不動産取引を行う方にとって、お役に立てる知識となれば幸いです。最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

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